まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

 目が覚めたとき隣に彼の姿はなかった。

 布団で体を隠しながらきょろきょろと周りを見回したら、夕暮れに照らされたベランダにひとつの影が見えた。私は下着を拾い上げ、そっと近くのバスローブを身にまとって近づいていった。

「綺麗」

 夕焼けが包み込んだ二〇階から見える京都の街並みは絶景だった。

「起きた?」
「はい」

 柵に身をゆだねる彼の隣に立ち同じ景色を見つめた。オレンジ色の街の奥に沈んでいく夕日を見守ったあとちらりと彼の様子を伺う。

「聞いてもいいですか」
「ん?」
「どうして結婚したくないって、契約結婚なんてしようと思ったのか」

 今まで何回も飲み込んできた言葉をどきどきしながら口にする。ずっと気になっていたけれどなんとなく踏み込めなかった場所に今ならいけるような気がした。

 しかししばらく返答はなく、しんとした空気に一層緊張感が増した。

「俺は望んでできた子供じゃなかったから」

 ぼんやり遠くを見つめたまま重い口がゆっくりと開けられた。

「親父は若葉さんとの婚約を破談にさせたいがために当時仲居として働いていた母と関係を持った。俺ができたのは偶然だったんだ」

 心の内側に初めて触れた。話し出す悲し気な横顔を見たら自然と体が動いていてそっと寄り添うように近づいていた。