まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「あれは打ち合わせ用に用意しただけだ。俺の部屋にまであいつがいたんじゃ落ち着かなくてたまったもんじゃない」

 呆気にとられた後、思わずくすっと噴き出すように笑ってしまった。

 「なんだよ」と怪訝そうに私を見る彼に笑いをこらえながら首を振る。でも彼があまりにも嫌そうに栞里さんのことを話すもので、なんだか想像していた関係と違っていたから可笑しかったんだ。

「ん?」
「いえ、行きましょう」

 私は弾むように近づき満面の笑みで彼を見上げる。

 一哉さんが当たり前のように〝帰ろう〟と言ってくれるのは私だけだ。栞里さんがだめでも私は入れる彼の部屋。その優越感は私の落ち込んでいた心を一気に晴らし、それだけで嬉しくて顔がにやけてしまった。

「それでなんで急に?」

 緊張地味に入ったさっきと景色の変わらないラグジュアリーホテルの一室。

 うろうろと座る場所に困っていたら金の刺繡が入った大きなソファに腰かけた一哉さんが前かがみになって聞いてきた。

「また若葉さんにいいようにこき使われたんだろう。まったくあの人は――」
「違います! これは私がっ」

 食い気味に否定して勢い込んで言ったものの、急に恥ずかしくなってそのあとに続く言葉を飲み込んだ。

「私が?」

 じっと見つめてくる視線に目を泳がせつつ、ごくりと唾をのんで彼の隣にどんと座った。

「私が来たいって言ったんです」

 顔が真っ赤になっているのが自分でもすぐに分かった。