まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「はぁ」
「結」

 近くの石段に座り込んでため息をついた途端、私を呼ぶ声に顔を上げた。

「え、どうして」

 なぜか汗だくの一哉さんが目の前に立っていて、瞬きして固まっている間にすぐ隣に腰かけてきた。

「あんな飛び出し方して追いかけないはずないだろう」

 扇子で扇いでいる彼の横顔を見つめながらその言葉にトクンと心が動く。まさか追いかけてきてくれていたとは気づかずに耳が一気に熱くなるのを抑えられなかった。

「何言われても気にするな」
「え?」
「栞里とは京都に住んでいた時期に家同士でよく交流があったんだが、昔から誰であろうと俺の周りにいる女が嫌いでな。誰かれ構わないんだ。だから言いたい奴には言わせておけ」

 一哉さんはずるい。

 その言葉だけでもやもやしていた気持ちがだんだんと晴れていく。彼女を置いて私を選んでくれたと思っただけで嬉しくてたまらない。今の私はそんなに単純になっていた。

「暑い、帰ろう」
「あ……私は」

 暑そうに立ち上がった彼に続くことができず腰が重かった。部屋にいるであろう栞里さんの不敵な笑みが思い出され、帰るのは気乗りしなかった。

「栞里はいないよ」

 すると一哉さんは浮かない表情で座ったままいた私の気持ちを察して先回りして言う。