まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

 前にうちもおんなじこと言われたさかい――。

 彼女の言葉をかき消そうにもあの京都弁が耳の奥にこびりついてまったく離れてくれない。

 あのとき偶々タイミングよく知り合って利用できそうだったから選ばれただけ。契約さえ守ってくれるなら誰でもよかった。

 私だけが特別だったわけじゃないと分かっていたつもりだったのに、どうして私の心はこんなにもずたずたに引き裂かれそうになっているんだろう。

 彼の傍にいたいというわがままも、ただの独りよがりで一方的な想いでしかない。残りの時間だけでも一緒にいられたらと思っていたはずなのに、どうしてこうも欲張りになっているのか。

 京都から帰ってこなくなったのは栞里さんがいるからかもしれないと考えてしまったら負のループに入り込み、いつの間にか見覚えのない通りまで走って来てしまっていた。


 正直、私は彼のことを何も知らない。

 結局どうして結婚したくないのかすら分かっていない。なんとなくそこまでは踏み込んじゃいけないような気がしていたからずっと気になっていたけれど聞けなかった。

 でもあの栞里さんは何もかも知っているのだろうか。婚約までしていた幼馴染みで契約結婚の話まで提案した間柄なんて私以上に深いところで結ばれているに違いない。

 あと二ヶ月して私がいなくなったところで、一哉さんの日常は何も変わらないのかもしれない。