まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「あれほど結婚を毛嫌いしとった一哉がよりによってあんたみたいな人を選ぶなんて。よっぽど色仕掛けがお上手なん?」

「なっ……、違います! 私たちは」

「月島家になんもメリットがあらへんとしたら結婚した理由はたったひとつ。一哉に都合のええ契約付だってことやな」

 心臓の鼓動がどんどん速まり、図星をつかれたとそのままの態度をとってしまう。体が固まってこの場をどう切り抜けたらいいか分からず頭が真っ白になった。

「あんた嘘が下手やな。まあ一哉の考えそうなことやけど、それで騙しとるつもり?」

 あまりに見透かされていてうまい切り返しが何も思いつかない。どうしよう、どうしたらとパニック状態で手から尋常ではない汗がふき出した。

「なんでうちがそこまで手に取るように分かるか、分かる?」
「私はなにも……」

 とにかく一哉さんが早く戻ってこないかとちらちら扉の方ばかり気にしていたら、突然立ち上がった栞里さんが私の前にゆっくり近づいてきた。

「前にうちもおんなじこと言われたさかい」

 彼女の大きな瞳に見下ろされひどく圧を感じた。そのときちょうど扉の開く音がして不思議そうな一哉さんの声が後ろから聞こえてきた。

「ゴミ取れたで」

 私は栞里さんの手が髪に触れると同時に部屋を飛び出していた。歩きずらい下駄のせいで何度もつまずきそうになりながら、急いでどこか誰にも見つからない場所に行きたかった。