警察署に遅れて父がやってきて、母よりも何倍も冷静にホテル側からの話を聞いていた。
 そうして目撃していたスタッフが聴取で呼ばれている間に、国治さんは父に妹が私の大切な三百万を無断で持ち逃げした事実を伝えた。
 父は非常に驚き項垂れて、妹の代わりに三百万を私に返すと言ってきた。
 私はそのお金は妹が壊した備品の弁償代にあてて欲しいと伝えた。
 頭は真っ白だった。
 母は私に、最後まで声を掛けてくることはなかった。
 
 その日、先に帰らせて貰った私はその足で夜でも開いている役所に寄り、離婚届を貰ってきた。
 もうこれ以上は、国治さんに迷惑は掛けられない。離婚予定日よりもまだ日にちはあったけれど、あんな家族と一時的にでも親族にしてしまったことが何よりも申し訳なくて。
 別れを悲しむとか、寂しく思うとか、離婚予定日に書く離婚届は、しんみり書くのだと想像していた。
 全然違う。恥ずかしさと情けなさ、怒りと、これから離れる国治さんへの恋しい思いでいっぱいだった。
 そうして私が記入する欄を全て書き終え、帰ってきた国治さんに「お願いします」と頭を下げて離婚届を渡した。