人生で初めて包んだ餃子は、餃子というより焼売のような……餡がはみ出して変な形のハンバーグにも見えた。
 綺麗に均一に包まれた琴子さんの餃子と、形が不揃いで餡も元気にはみだした僕の餃子。
 並べると差が激しすぎて目を逸らしたくもなったけれど、琴子さんはにこにこしながら油を引いたホットプレートに並べていく。
「自分が、これほど不器用とは。普段なら一応とりあえずのことは人並みに出来るのに」
「国治さんは、出来すぎなんですよ。だから私は、なんだか嬉しくなっちゃいました。あっ、嫌味とかじゃないですよ!」
「嬉しくなったのか……次はもっと上手く包める自信がある。コツはなんとなく、わかった気がする」
 ホットプレートには、餃子が綺麗におさまった。
 じゅうじゅうと、焼かれ始めた音がし始める。
「……もう一回くらい、また餃子作りましょうね」
 琴子さんの言葉で、僕たちに残された契約結婚生活の終わりを意識する。
 でもまだ冬で、それから春がきて、初夏の入口まではまだまだだ。
 時間はまだある。
 春までは、まだある。
「うん。次は、とっも上手く包んで琴子さんを驚かせるよ」
 琴子さんは、小さくわずかに寂しそうに笑った。
 蒸し焼きにするといって、熱湯が少量ホットプレートに注がれる。
 一気に水蒸気があがり、油のばちばちと跳ねる賑やかな音がして、この寂しい雰囲気を吹き飛ばした。