「違うちがう。悪い意味じゃなくて、全面的に良い意味だって」
僕はどんな顔をしているんだろうか、坂崎がやけに優しく答えた。
「神楽坂って、仕事も真面目だしスタッフへの気配りも出来るだろ? 大体のことはお前に任せればホテルは何とかなるって皆思ってる。そのくらい信頼してる、けど」
「けど?」
「隙がないって言うのかな。人間臭いところが見られないから、完璧過ぎて自分との間に一枚壁があるみたいな」
悪口とか、いじめてるんじゃないからな!と強く念押ししてきた。
壁がある。坂崎の言いたいことが、わからない訳ではなかった。
お客様にもスタッフにも、僕は仕事だからそう接している自覚がある。仕事だから気を配り、笑顔を貼り付けている、そこに僕の私情はない。
それを『壁』と言われるのは、おかしなことじゃない。
坂崎は制服のネクタイをいじりながら、ちらりと僕の反応を伺っている。
自分から言っておいて、僕が今更傷付くとでも思っているんだろうか。
こういうところが、坂崎の人間臭いところだ。
「……壁か。その壁が、どう変わったって?」
「壁は変わらないんだけど、コンクリートが野球場のオーバーフェンスくらいには変わったかも。以前よりも、柔らかくなった気がする」
オーバーフェンス、あの外野手がぶつかってもケガをしないようにウレタンでできたフェンスのことか。
コンクリートとウレタン。まぁ、違うな。
「坂崎って、変わってる。人にオーバーフェンスみたいだと言われたのは初めてだ」
その答えに、坂崎は僕が気を悪くしていないことを確信したようだ。
それに、僕の顔をじろじろ見てくる。
「……なんだ?」
「神楽坂、結婚して変わったなーって思っただけ!」
「さっきも自分で、僕が変わったって言ってたじゃないか」
変な奴。そう言っても、坂崎はニヤニヤとしているばかりだった。
僕はどんな顔をしているんだろうか、坂崎がやけに優しく答えた。
「神楽坂って、仕事も真面目だしスタッフへの気配りも出来るだろ? 大体のことはお前に任せればホテルは何とかなるって皆思ってる。そのくらい信頼してる、けど」
「けど?」
「隙がないって言うのかな。人間臭いところが見られないから、完璧過ぎて自分との間に一枚壁があるみたいな」
悪口とか、いじめてるんじゃないからな!と強く念押ししてきた。
壁がある。坂崎の言いたいことが、わからない訳ではなかった。
お客様にもスタッフにも、僕は仕事だからそう接している自覚がある。仕事だから気を配り、笑顔を貼り付けている、そこに僕の私情はない。
それを『壁』と言われるのは、おかしなことじゃない。
坂崎は制服のネクタイをいじりながら、ちらりと僕の反応を伺っている。
自分から言っておいて、僕が今更傷付くとでも思っているんだろうか。
こういうところが、坂崎の人間臭いところだ。
「……壁か。その壁が、どう変わったって?」
「壁は変わらないんだけど、コンクリートが野球場のオーバーフェンスくらいには変わったかも。以前よりも、柔らかくなった気がする」
オーバーフェンス、あの外野手がぶつかってもケガをしないようにウレタンでできたフェンスのことか。
コンクリートとウレタン。まぁ、違うな。
「坂崎って、変わってる。人にオーバーフェンスみたいだと言われたのは初めてだ」
その答えに、坂崎は僕が気を悪くしていないことを確信したようだ。
それに、僕の顔をじろじろ見てくる。
「……なんだ?」
「神楽坂、結婚して変わったなーって思っただけ!」
「さっきも自分で、僕が変わったって言ってたじゃないか」
変な奴。そう言っても、坂崎はニヤニヤとしているばかりだった。



