帰り道を奪われて

(珠子さん、ごめんなさい。あたしは巫女役をきちんと務めることができなかった……)

この目を閉じてしまうと、紫乃の命は簡単に冬の寒さによって奪われてしまう。死にたくない、珠子たちのところへ帰りたい、そう心は叫んでいる。だがーーー。

(指一本もう動かない。それにとっても眠いや……)

紫乃の意識は暗闇に包まれていく。最後に紫乃が見たのは、何者かがゆっくりと近付いてくる様子だった。



柔らかく、そして温かい温もりに紫乃は包まれていた。爽やかないい香りが漂っている。まるで、新緑の生い茂る中にいるようだ。

「んんっ……」

紫乃がゆっくりと目を開けると、そこにあったのは神社の御社殿の天井だった。驚いて紫乃が飛び起きると、大きな羽織りがバサリと音を立てて紫乃の体から離れる。その後に気付いたのか、何者かが扉を開けて入ってきた。

「気が付いたか。吹雪の中、倒れていて心配したよ。雪が強まるから祭りは後日にしろとあれほど忠告したというのに……」