僕の愛おしき憑かれた彼女

「ごめん、歩くの速かったよな」

頭を掻きながらも、砂月の方を、ちゃんと見れない俺に、砂月が、泣きそうな顔をして、俺をみあげた。

「え?どした、砂月?」

砂月は、大きな瞳を潤ませると、消えいるような声で呟いた。

「……私と一緒にいくの……嫌だった?」 

「えっ?」

思わず、大きな声がでた。砂月が、なぜ泣きそうになっているのかも、砂月がなぜ、俺が砂月と一緒に行きたくないと思ったのかも、検討がつかない。

「な、何でそうなるんだよ?」

砂月の大きな瞳からは、もう涙が溢れそうだ。

「だって……」

「だって?」

「……彰、私の浴衣姿見ても、興味無さそうだし、先に歩いて行っちゃうし、私と行くの……嫌だったかなって……」

砂月の瞳から、ついに溢れた涙は、あっという間に2つ3つと増えていく。

「ばか、違っ……」

(砂月が可愛いすぎて、見られないんだよっ)

俺は、ポケットに入れておいた、ハンカチで砂月の涙を拭いながら、唇を湿らせた。

「彰……行きたくないなら」

「砂月と行くの、どんだけ楽しみにしてたと思ってんのっ」
 
「え?」

俺の言葉に、砂月の瞳がまんまるになる。

「……彰?」

俺は、砂月の右手をパッと掴むと、砂月が歩きやすい速さで再び歩きだす。

雪駄と下駄の音が、交互に心地よく鳴り響いていく。

「……砂月の浴衣、めちゃくちゃ似合ってる、見慣れないから……そんだけっ」

返事のない砂月を、チラッと見れば、赤く頬を染めた砂月が、俺を見上げて、恥ずかしそうにはにかんだ。

「良かった……浴衣、褒めてくれて有難う」

「お、う」

俺の心臓がまた跳ねる。砂月の笑顔は心臓に悪い。俺は、それ以上何も言葉が、出てこない代わりに、砂月と繋いだ掌にぎゅっと力を込めた。


春宮神社に着くと、いつもは閑散としている、うちの神社も多くの人で賑わっている。

「あ、彰、屋台今年も結構でてるね」

「本当だな、ベビーカステラに、イカ焼きに、綿菓子、ヨーヨー釣り、射的、で、砂月の好きなヤツもあるな」

ニッと笑った俺を見上げて、砂月が大きな瞳を細めて、にっこり笑う。

「彰、リンゴ飴、今年も食べていい?」

「好きだな、リンゴ飴、いいよ、今年も買ってやるよ」 

「じゃあ私はベビーカステラ買うね」

砂月が、俺の左手をぎゅっと握りしめた。

小さな頃から、親からもらった500円玉をそれぞれ握りしめて、2人でお祭りに来たことを思い出す。

砂月が、500円でベビーカステラを買って、俺と一緒に松の木の下で座って食べる。

俺の500円の使い道は、300円でリンゴ飴を砂月に買ってやって、ヨーヨー釣りで200円使う。

そうして、リンゴ飴を頬張る砂月を眺めながら、ボシャボシャとヨーヨーを鳴らしながら、砂月と手を繋いで、帰るのがお決まりのパターンだった。

いつからだろうか。こんなに砂月と夏祭りに来るのも、砂月の浴衣姿にドキドキするようになったのも。

いつの間にか、子供の頃の『好き』と今の俺の『好き』は、少しだけカタチが変わってきてるのかもしれない。