「……あ、きら?」

砂月の、いつもの俺を呼ぶ声に安堵する。

「……うん」

「どうしたの?」

砂月が、心配そうに俺を見上げた。

「……もうちょっとだけ」

いつもなら、砂月をすぐに離すけど、今日は、どうしてもすぐに離したくなかった。いつまでたっても離れない俺に、砂月は諦めたように背中にぎゅっと砂月の両手が回される。

「彰、しんどかった?」

気遣うように、か細い声で砂月が、こちらを見上げようとする。 

「大丈夫だよ」

俺は、顔を見られないように、もう少しだけ力を込めて砂月を(くる)んだ。

「私、いつも覚えてなくて……あの、彰にお願いしてばっかりだし」 

「砂月が、怖くて、しんどくないなら、俺はいい」

「憑かれやすい私のこと嫌じゃない?」

「な訳ねーだろ」

こんなに近いのに、何て言ったらちゃんと伝えられるんだろう。

幼なじみというのは厄介だ。近くて遠い。ちゃんと触れたと思っても、すぐすり抜けていくような酷く曖昧な関係で。

「砂月……ありがとう」

ちゃんと、砂月にありがとうって言ったのはいつぶりだろうか。砂月は何も言わない。ただ背中に回された小さな両手が、ぎゅっと強く俺を締め付けた。

「なぁ、腹減ったよな?」 

「え?」

「学校には、俺ら体調不良で連絡しといたから。何か食べに行こうぜ」

いつもの口調で、そう言って俺は、砂月から離れた。

今離れないと、ずっと離れたくなくなりそうだったから。砂月を困らせたくなかった。

「……彰、ありがとう」

ビー玉みたいな綺麗な瞳が、俺に満面の笑みでお礼を言った。

ーーーー別に砂月の為なら、何回だって何万回だって祓ってやる。一生だって。

「ばぁか、余裕だし」

顔が、赤くなるのが分かった俺はそっぽを向いた。砂月が、俺の顔を見上げながらクスクスと笑った。

俺は、やっぱり、砂月の笑ってる顔が一番好きだ。