「あ……」
くまの刺繍の下に、『あき』と、文字を縫いながら河野さんが声を発した。
「大丈夫ですか?」
てっきり針が指に当たったのかと、声をかけた俺に、慌てて河野さんが、首を振った。
「あ、ごめんなさい。針で刺したんじゃないの。ちょっと思い出したことあって……この刺繍を教えてくれた友達、神社に嫁いだんだけど、その子供に一度だけ会ったことがあって」
「あぁ、そうなんですね」
「うちの娘、あきって言うんですけど、その友達の子供が『あきら』っていう名前の男の子なんです。名付けたのは友達で、その男の子の名前の由来が、凄く素敵だったから、うちの娘にも付けたんです。そのことも、その友達に伝えられたら良かったなって」
河野さんは、にこりと笑った。
「そう……なんですか」
ーーーー偶然、なんだろうか?あきらなんて名前どこにだって……。
「あの、……その刺繍教えてくれた人って、さっき神社に嫁いだって言ってましたよね?どこの神社か覚えてます?」
「あぁ、ここから少し離れてるけど、春宮神社ってとこよ。あ、神主見習いって言ってたものね。何だかご縁を感じちゃうわね」
一瞬で、固まってた俺は、ぎこちなく言葉を返した。
「……あの、その、友達の子供さんの……名前の由来って?」
「あ、由来ね。どんな困難があっても『あきらめない』ように。どんな夢や目標でもあきらめなればきっと叶うって。そんな人になって欲しい、そんな人生が、待っていて欲しいって言ってたわ」
素敵ね、と河野さんが優しく微笑んだ。
ーーーー自分の名前の由来なんて知らなかった。
多分、父さんは知ってるんだろうけど、母さんが亡くなってから、母さんの話を一切しなくなったから、俺も母さんの話しを父さんに聞いた事がなかった。
『あきら』めないようにか……。
何だよ、立派な名前付けて期待してんじゃねーよ。名前負けしそうじゃん。
捻くれてる俺は、一瞬そんな事思ったけど、心の奥が、あったかくなった。母さんが、生まれて初めのプレゼントに、そんな想いを込めてくれてたんだって、単純に嬉しかった。
母さんか……。もう長いこと会って無い。二度と会えない。
当たり前だけど死んだら、もう永遠に会えないんだ。俺も、砂月も。
くまの刺繍の下に、『あき』と、文字を縫いながら河野さんが声を発した。
「大丈夫ですか?」
てっきり針が指に当たったのかと、声をかけた俺に、慌てて河野さんが、首を振った。
「あ、ごめんなさい。針で刺したんじゃないの。ちょっと思い出したことあって……この刺繍を教えてくれた友達、神社に嫁いだんだけど、その子供に一度だけ会ったことがあって」
「あぁ、そうなんですね」
「うちの娘、あきって言うんですけど、その友達の子供が『あきら』っていう名前の男の子なんです。名付けたのは友達で、その男の子の名前の由来が、凄く素敵だったから、うちの娘にも付けたんです。そのことも、その友達に伝えられたら良かったなって」
河野さんは、にこりと笑った。
「そう……なんですか」
ーーーー偶然、なんだろうか?あきらなんて名前どこにだって……。
「あの、……その刺繍教えてくれた人って、さっき神社に嫁いだって言ってましたよね?どこの神社か覚えてます?」
「あぁ、ここから少し離れてるけど、春宮神社ってとこよ。あ、神主見習いって言ってたものね。何だかご縁を感じちゃうわね」
一瞬で、固まってた俺は、ぎこちなく言葉を返した。
「……あの、その、友達の子供さんの……名前の由来って?」
「あ、由来ね。どんな困難があっても『あきらめない』ように。どんな夢や目標でもあきらめなればきっと叶うって。そんな人になって欲しい、そんな人生が、待っていて欲しいって言ってたわ」
素敵ね、と河野さんが優しく微笑んだ。
ーーーー自分の名前の由来なんて知らなかった。
多分、父さんは知ってるんだろうけど、母さんが亡くなってから、母さんの話を一切しなくなったから、俺も母さんの話しを父さんに聞いた事がなかった。
『あきら』めないようにか……。
何だよ、立派な名前付けて期待してんじゃねーよ。名前負けしそうじゃん。
捻くれてる俺は、一瞬そんな事思ったけど、心の奥が、あったかくなった。母さんが、生まれて初めのプレゼントに、そんな想いを込めてくれてたんだって、単純に嬉しかった。
母さんか……。もう長いこと会って無い。二度と会えない。
当たり前だけど死んだら、もう永遠に会えないんだ。俺も、砂月も。



