ゾンビ,ゾンビ? いるわけない。これから先も,存在するわけがない。

だって,所詮人間の空想だから。

ゾンビなんて言葉があるのは,見た人がいるからじゃない。

ホラーを際立たせるために,人間が勝手に思い描いたから。

でも,そうね。

ゾンビが来たら? どこに逃げるか?

あはは,笑わせないでよ。

決まってる。

私は…いっちばん大好きな彼のもと。

だって他のどこに逃げたって,結局は死ぬんでしょ? 意味ないじゃない。

逃げて逃げて逃げて,誰かも分からない汚い死体に,はむっと噛まれるんでしょ?

冗談じゃないわ。

なら行くべきは彼のもと。

それまでは死ねないから,そこまで逃げるの。

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逃げてどうするか? 

察しが悪いのね。

本当に分からないの? 

きっと恋をしたことがないのだわ。

いい? 答えなんて1つしかないの。

まず,別れの挨拶をするわ。

『さよなら』

ってね? 何も告げられないまま,挨拶1つ出来ないまま死ぬなんて,お互い嫌だもの。

そして次にキスをするの。

また逢いましょうって,約束を添えて。

そしたら後は何でもいい。

どんな手法でもいいから,彼を殺すの。

もちろん。出来るだけ優しくね。

そして,私は出来るだけ彼を覆い隠すように,その上で死ぬ。

彼を殺すよりきっと,ずっと簡単。

だってきっと,彼は死を目の前に,どうしたって怖がってしまうから。

私は…きっと怖いけど,目の前に彼がいれば大丈夫。

だって私は彼を愛しているもの……!

その次はもう,勝手に流れていくわ。

まず,遅かれ早かれやってくるゾンビに,最初に噛まれるのは私でしょ?

そして私はゾンビになるの。

じゃあ彼は? 1番近くにいる私に噛まれるの。

その為に,私は彼を隠して死んだんだから。

何でって,彼がどこの馬の骨とも知れないやつに殺されるなんて……悲しくて悲しくて,許せないからよ。

私達はずっと一緒なの。

彼もよく言ってくれたわ。

永遠(ずっと)…よ? なんてロマンチックなのかしら…!

羨ましいでしょ。

だから,私じゃなくてはいけないの。

彼を殺すのは。

反対こだっていいわ。

彼はきっと泣いてしまうけれど。

でもゾンビになるなら…出来るだけ早くがいいわね。

死んですぐの,綺麗なまま。

どうせ腐るんでしょうけど,彼の前では少しでも長く綺麗でいたい。

恋する乙女って,そうゆうものでしょ?

近くで死ぬんですもの。 

意識がなくとも,そうそう離れることはないわ。

きっとね。

そう,信じてる。

ところで,ねぇ。

どうしてそんな話を今,あなたは私にするの?

…あぁ,あらあら。

とっても大変ね…! 

本当に出るなんて,信じられないわ。

それ,本当なの? どうなの?

実現させたいなんて愚かな人でもいたのかしら。

まぁ,いいわ。

真実なんてどっちでも。

なら,早く。

1秒でも早くいかなくちゃ。

…彼のもとに。

本当だったら困っちゃうもの。

本当じゃなくても,どのみち私達はずっと一緒。

何も変わらないわ。

ほら,早く。

あぁあなた,教えてくれてどうもありがとう。

お陰できっと間に合うわ…!

待っていてね,大好きよ貴方。

この私が,今いくわ。

              ーend