恐怖と混沌の中、果てしない狂愛に包まれる。

 逢伊さんを力任せで押すも、さっきと同じようにびくともしない。

 一刻も早く逃げ出さなきゃならないのに、逢伊さんに縛られているせいで動かない。

 早く、逃げなきゃいけないのにっ……!

 恐怖と焦りで思考が上手く働かない。

 真実を受け止めたくなくて、必死に抵抗する。

 でも……逢伊さんの言葉は、本当だと思わざるを得ない。

 真剣で本当で、芯がある狂気的な声。

 そのせいでたくさんの涙が溢れてきて、もうどうしていいのかも分からなくなってきた。

「璃々はそうやって逃げようとするんだね。ならいいよ、逃げても。」

 逢伊さんは不意にそんなことを呟き、一瞬だけ腕の力を抜いてくれた。

 こ、これで逃げれるっ……!

 きっと逃げても、ゾンビに追いかけまわされる日々が続く。

 だけどこの人に縛られるより、全然いいと思ったんだ。

「……っ!?」

「……なんて、できるはずがないのにね。」

 でも、無理だった。

 逢伊さんが力を抜いたのなんて本当に一瞬で、逃げられる隙なんて与えられなかった。