恐怖と混沌の中、果てしない狂愛に包まれる。

 今の私の心の中にあるのは、恋情でも愛情でも好意でもない。

 ……底知れない、恐怖。

 それを自覚したと同時に、近くに転がっている”あるもの”に気付いた。

 こ、これ……ま、まさ、か……っ。

 遠目から見ても分かる。そこに落ちているものは……血がこびりついた、ナイフだった。

 そのほかにもこの部屋には手錠やロープ、スタンガンなどの物騒なものがたくさん置いてある。

「にげ、なきゃ……。」

 無意識にそんな言葉を呟いて、私は急いで踵を返して逢伊さんのお家から脱走した。

 ここにいたら、逢伊さんのところにいたら……殺されてしまう。

『いや、ここはどこよりも危険だ!闇重のところにいたら、お前は……』

『璃々は黙ってろっ!こいつとは一緒にいるなっ!こいつはヤバい奴なんだ……っ!』

 あの時の耀太の言葉が、今になって反芻される。

 耀太が言ってたのはこの事、だったんだ……っ。

 だから私から逢伊さんを離そうと必死になって、私を守ろうとしてくれたんだ……。

 ……っ、私は、なんてことをしてしまったんだろう。