恐怖と混沌の中、果てしない狂愛に包まれる。

「そ、それは嫌です……。」

 確かに、私はゾンビにならないけど食料にはなってしまう。

 だから今、お父さんたちの心配をしている余裕なんて……本当はないのかもしれない。

 小さな声でそう呟くと、逢伊さんは私の頭をよしよしと撫でてくれた。

「璃々にとっては辛いことだと思うし、俺だって気持ちは分かる。だけどそこで立ち止まってちゃ、ダメだよ。今はこの騒動が収まるまで、俺と一緒にいよう?」

 優しく包むような柔らかい声で、言われた言葉。

 そう、だよね……。今の私じゃ、何にもできないから……逢伊さんの言う通り前を向かないと。

「はい……!ありがとう、ございますっ……!」

 涙がまだ少しだけ溢れてきているけど、私はそれを相殺できるように笑顔を浮かべた。

 逢伊さんは変わらず私を抱きしめていてくれ、頭を撫でてくれる。

 こんな私を助けてくれたのは逢伊さんだ。こうやって元気づけてくれたのも逢伊さん。

 どうして逢伊さんは、こんなに優しいんだろう……。

 ふっとそう思ったけど、逢伊さんの体温に包まれているのが心地よくて、しばらく抱きしめられていた。