恐怖と混沌の中、果てしない狂愛に包まれる。

 だからちょっと不安だったけど……美味しいなら良かった。

 安心してほっと息を吐いていると、逢伊さんのふっと微笑んだ声が聞こえた。

「璃々、美味しいコーヒーありがとね。おかげで疲れ吹き飛んじゃったよ。」

「そ、それなら良かったですっ!」

 こんな素人の淹れたコーヒーでいいなら、いくらでも振る舞いたい。

 逢伊さんの元気そうな声でそう言われ、思わず頬を綻ばせる。

 そういえば、お父さんも同じようなこと言ってたっけ。

『璃々の淹れた紅茶はいつ飲んでも美味い。疲労なんか飛んでいったよ。』

 不意に、逢伊さんとお父さんの影が重なり、視界が歪む。

「璃々……?」

「……っ、ご、ごめんなさ……。」

 思わず瞳からは涙が溢れてきて、慌ててごしごしと雫を拭う。

 ここにはお父さんなんかいないのに、何で思い出しちゃうんだろう……。

 お父さんはもうゾンビになってしまった。もう元には戻らない。

 なのに……どうしても頭の中にお父さんの笑顔が焼き付いてしまっている。

 お、とうさん……っ。会いたいよ……っ。