明かりのついた舞台の上では、煌びやかな着物を着た人々が集まり、美しい踊りを見せている。客席に座った者はあまりにも美しいその踊りに言葉を失い、誰もが舞台から目を逸らせない。灰治(はいじ)もその一人だった。

舞台に立つ人々の繊細な指づかい、演奏者たちが奏でる音色、着物の擦れる音、その全てが灰治たち観客を非日常の世界へと誘っていく。

(こんなにも美しいものが世の中には存在するのか……!)

灰治の全身をゾクリと寒気が走り、まるで雷に打たれたかのような衝撃を覚える。自然と手は袴を力強く握り締め、心臓の音は高鳴っていった。

藍色の着物に黒い袴と、小綺麗な格好をしている灰治が今訪れているのは東京にある大きな劇場だった。先月オープンしたばかりのその劇場には毎日多くの人が集まり、そこで行われる芸能を楽しんでいる。

灰治は、千葉から東京のとある家に奉公しに来ている。今日は仕事が休みのため、その家の主人に「東京観光でもしたらどうだ?」とその家の息子が使っていた着物と袴を貸してもらい、この劇場にやって来た。