「カイル団長は、お噂と随分違って優しいですね。」
笑みを浮かべてサラが言う。
「冷酷で恐れを知らない男だと?
平和を守る為、誰かがやらなければならないのだ。それがたまたま俺であっただけ。」
「軍人とは大変なお仕事だと思います。
並外れた精神力、忍耐力、判断力が無ければ命も落としかねない。
それを貴方は一人で担っている。尊敬します。」
「はははっ。そんなに大した男では無い。
ただ目の前にある課題をこなして、気付けばここに居ただけだ。」
カイルは軽く笑い飛ばす。
「それに比べて、僕はこの三年何をしていたのだろうと、父を助け出したいと思うだけで、自分を守る事で精一杯だった…知らない所で多くの人が動いてくれていたのに…嫌になります。」
「そんな事を考えていたのか…
両国の友好の為、平和の為にボルテ公爵が居なくては成り立たない。
その証拠に、三年前と今とでは貿易も人々の気持ちもだいぶ変わった。
とても不安定な平和だ。いつ崩れてもおかしく無い。」
カイルは思う。
この少年が担う未来はとても重たいと。
「俺はいつも、人の上に立ちたいと思って戦っているのでは無い。
見知った人を、仲間を、誰一人かける事なく守りたいと思って戦っている。
それは、貴方のお父上の事も、貴方自身の事も、守り助けたいと思う事と同じだ。」
「寛大なお気持ちです。
大抵の人は皆、自分の私利私欲の為に生きると言うのに…。」
「貴方のお父上は民の為に、周りの平和の為に生きる方だ。
自分を犠牲にしても守りたいのだと、貴方もその血を継いで今ここに来たのでは無いか?」
ふと、ジーナやルイ、マーラや村の人々の顔が浮かぶ。お父様はきっとみんなを守る為に自分を犠牲にしてまでも守り抜いたんだ。
「それを俺に教えてくれたのは他ならぬボルテ公爵だ。」
涙が溢れそうになる。
『自分の為に生きるな。誰かの為に生きなさい。それが回り回って自分の幸せに繋がるのだ。』
お父様が言っていた言葉を思い出す。
「父の言葉を思い出しました。
カイル団長、父の意志を継いで下さりありがとうございます。」
心からの笑顔でお礼を言う。
カイルは瞬間、眩しい物を見たかの様に眼を細める。ドクンと心臓が躍るのを感じ戸惑う。
言葉を失い、しばらくこの少年を見つめてしまう。
「……
泣くか、笑うか、どちらかにしろ…。」
そう呟きまた前を向いて歩き出す。
先程よりもゆっくりと。



