ドンドンドン…
「…誰だい。こんな時間にドアを叩くのは?」
「マーラさん?
私、サラです。覚えてますか?」
「お、お嬢様⁉︎
い、今開けますから。」
ガチャガチャっと音を立ててドアが開く。
「ああーー。お嬢様…大きくなられて…」
ふくよかなマーラに抱きつかれて思わずよろけてしまう。
「マーラ元気そうで何よりだわ。
それよりも、街に活気が無くてどうしちゃったの?以前のボルジーニとはまったく変わってしまったから心配になって来てみたの。」
「と、とりあえず中に入って下さい。
誰が聞いているか分かりませんから。」
マーラは慌てて部屋の中にサラを招き入れる。
「まぁ…。髪を短く切ってしまったのですか…。ストレートで綺麗な髪でしたのに…」
部屋に入って、被っていた帽子を取ったとたんマーラは気付く。
「女の一人旅は何かと危ないでしょ。
ジーナにお願いしてバッサリ切ってもらったの。この方が男の子に見えるでしょう?」
「そうですね…。小さい頃のリューク様によく似ています…。」
寂しそうに笑いながらマーラは言う。
「本当⁉︎
お兄様に似てる?良かったわ。
なんだかしっくり来てなかったから、ちゃんと男子に見えるか心配だったの。」
「リューク様が武道を始める14歳くらいの頃によく似ていますよ。
可愛らしくて女の子みたいだったじゃないですか。」
「せっかく変装したのに…女子に見えるのは困るのだけど…」
サラは困り顔で自分が写し出された窓ガラスを見つめる。
「お食事はまだですか?
もし良かったらシチューが残ってますけど、食べられますか?」
マーラは間を取り持つ様に、サラに優しく話しかける。
「ありがとう。実はさっきこちらに着いたばかりでお腹ペコペコなの。」
サラはお腹を撫でてマーラに言う。
「あらそれは大変でしたね。
お疲れでしょう。どうぞ、お店のテーブルに座って下さい。」
「ありがとう。またマーラの作るご飯が食べられるなんて嬉しいわ。」
「私も、お嬢様にもう一度会えるなんて本当嬉しいです。お元気そうでなによりです。」
「今日はルイ様とご一緒ではないんですか?
こんな夕刻に1人でお歩きになるなんて危ないですよ。」
「実は…ここには1人で来たの。
明日には隣国に渡ろうと思っているのだけど…。」
「お、お一人で⁉︎」
「リューク様は⁉︎
お兄様が良くお許しになりましたね。」
マーラは目を丸くして、ガチャンとシチューを混ぜるお玉まで落として驚いた。
「…お兄様は、この冬に病気で亡くなられたの…。流行り病にかかって…突然だったから誰にも知らせる事が出来なくて…。」
「まぁ。なんて事!!
まさか、あのリューク様がお亡くなりに…。」
口に手を押さえて涙を流すマーラ。
「お父様にも手紙は書いたのだけど…届いているかどうか…。」



