大蛇の花嫁

「大人しく生贄になれ!!言うことを聞け!!」

「大蛇なんだから、一瞬で死ねるだろ?うんざりなんだよ。俺らのために死んでくれ。死ねるだろ?」

口々に責め立てられるように言われ、箱に押し込められる。そして桃は今、ヤマタノオロチがいる谷へと連れて行かれているのだ。

(どうして私なの?どうして大蛇は、私のこと知っていたの?)

ヤマタノオロチの存在は、家に人が押し掛けて来た時に桃は初めて知った。だが、そのヤマタノオロチは桃を指名した。そこだけが疑問である。だが、考えても答えは当然出てくることはなく、むしろ死への恐怖がまた募っていくだけだった。

(私、これからヤマタノオロチに喰われるんだよね……。逃げたい。助けて。嫌だ。死にたくない)

殺されるとは、どれほど苦しく辛いのだろうか。どれほど痛いものなのだろうか。きっと残忍な方法で殺されるのだと、桃の体は震えていく。

箱に入れられてどのくらいの時間が経ったのだろうか。ガタガタと揺れていた箱が地面に下ろされ、揺れがピタリと止む。それは、目的地である谷に着いたということだ。

(ああ、私……もうすぐで……)