碧は母が眠っている間、家を飛び出して神社へと向かい、そこで母や村の人たちの病気が治るように願うようになった。ここで祀られている神様は、医薬の神様なのだと母から聞いたことがあったためである。

拝殿に吊るされた鈴を鳴らし、二度頭を下げ、手を合わせる。そして心の中で必死に祈るのだ。

(お願いします!母や村の人たちの病を治してください!)

この流行病で、どれだけ多くの命が失われたのだろうか。村の外へ出たことのない碧には、江戸や京がどのような街なのかは想像でしかわからない。だが、多くの人が大切な人を失い、悲しみに暮れているはずだ。

この小さな村でも、病によって命を落としている人がいる。そして、突然の永遠の別れに泣き叫んでいる人を何度も碧は見てきた。次は母の番かもしれない、そう思うと手が震えてしまう。

「お願いします!あたしにできることなら、何だってやります!だから、母やこの村の人を助けてください!」