ハッ、とわたしは思いついたことがあった。

「ユニコーンの角は……あらゆる病に効く……だから、アスター王子は騎士になられたんですか?」
「………」

アスター王子はすぐには否定されなかったから、たぶんちらりとでも考えたことがあるんだろうな。

「……母上の眠り病はもう15年に及ぶ。どんな薬も治療も効かなかった……確かに、心が揺さぶられるのは否定できない」
「そんなに長く……なら、治すためにどんな手段でも使いたい……と思うのは、自然なことではありませんか?」

わたしがそう話すと、黙ったままのアスター王子は額に手を当てた。

「だが……やはり人間のエゴだ。万物すべて人間のものだ、という驕り高ぶる気持ちを、オレは持ちたくない。母上の病は確かに治したい……しかし、そのために他の命を奪う必要があるならば、オレは他の方法を探したい。ましてや、神馬と言われる幻獣だ……」

たぶん、アスター王子の腕があればユニコーンは捕らえられるだろう。けれども、彼はその手段は決して使わない、と言った。

「アスター王子は、騎士としてアリューシャの英雄のようになりたいですか?」

トムソン達と話した国内誰もが知る英雄の伝承。突然そんな話をして、アスター王子が驚かれたけれども。

「なんだ、出し抜けに……火山のドラゴン退治の話か……あれは……」

こちらを見たアスター王子は、はっきりとおっしゃった。

「オレは、間違ってると思う。そもそもドラゴンの領域に人が勝手に足を踏み入れたことが原因なんだ。共存か、撤退かを人間が選ぶべきでドラゴンを殺す必要などない」

その言葉を聞いて、わたしははっきりとこの命を預けられる信頼できる人だ、と思えた。