「母上は、この湖でユニコーンを見たことがあるそうだ」
「え……」

アスター王子のご生母様が、わたしのようにユニコーンをご覧になられてた!?

「母上は、“綺麗なグラスが下がった大きな木からユニコーンが出てきた”とおっしゃった。ミリィ、おまえの説明と母上の話は一致する。だから、おれはおまえを信じるんだ」
「…………」

わたし以外にも、ユニコーンの目撃者がいた。やっぱり、あれは夢なんかじゃない。

でも……。

わたしは気になったことを、遠慮がちに訊ねてみた。

「あの、アスター殿下」
「なんだ?」
「御母上様は……どうしてらっしゃるのでしょうか?王妃様や他のお妃様のお話はお聞きしますが……あ、もちろん無理には話されなくてもいいですから」

これは、かなりプライベートな話題だ。いくら上司でも、怒っても仕方ない案件。でも、アスター王子はサラッと答えられた。

「ああ……母上は寝付いてらっしゃるからな」
「御病気ですか?」
「……まあ、ある意味そうなるかな」
「ある意味、ですか?」

言葉を反芻すると、アスター殿下はサンドイッチを食べ終えチーズに手を伸ばす。ハードタイプのそれを、アスター王子はナイフで切れ目を入れた。

「落馬、したんだよ。母上は騎士だった。それ以来、ずっと眠ってらして、いちども目覚めない。どんな医師や呪い師魔術師に見せても無理だった」

ザクッ、とアスター王子のナイフがチーズを真っ二つに切る。
その手が震えていたのは、決して気のせいじゃなかった。