厩舎に一緒に行ったアスター王子がまっすぐに向かったのが、わたしの愛馬である白馬アクア。

「アスター殿下?……えっ!?」

なぜアスター王子がアクアに?という疑問は、彼が手にりんごを載せて食べさせた事で納得した。

アクアは気難しい馬で、気に入った人間でないと乗せないどころか、自らに近づくのも許さない。
それなのにアスター王子から素直にりんごを食べているという事は……。

「殿下……ぼくが知らないうちにアクアを餌付けしてましたね?」

非難する眼差しで問い詰めれば、「バレたか」とあっさり認められた。

「いい馬だからな。一度でも乗ってみたかったんだ」
「そりゃあ、確かに。血統的にも馬格やしなやかさにスピード、持続力、物怖じしない性格。すべて最高で、ぼくの自慢の馬ですけど……」
「だな。アクアは世界で一番カッコいいとオレも思う」

アスター王子がそんなふうにべた褒めした途端、アクアの目が明らかにキラキラと輝いた。……やっぱり、人の言葉がわかってるよね。絶対。

馬丁さんに許可をもらい、ません棒を外したアスター王子は自ら鞍と手綱をアクアに付ける。

「あの?遠乗りっておっしゃいましたが……殿下のクルーガーは?」
「あいつは昨日酷使したから、今日は休ませる」
「で、でも……わわっ!?」

突然アスター王子がわたしの体を抱き上げると、ストンとアクアの背に乗せられる。そして、彼は慣れた様子でわたしの後ろに座ると、当たり前みたいに手綱を握った。つまり、アクアの背に2人乗り。

「行くぞ。しっかり鞍に捕まってろ」

そう言ったアスター王子は、いきなり全速力でアクアを走らせた。