(無視、無視!マトモに相手してる時間がもったいない)

喋る時間があれば、少しでも上り下りして自分を鍛えたい。同年代の男の子と比べても明らかに筋肉量が少ないのだから、わたしができるのは倍努力することくらいだ。

「おい!」

トムソンの戯言はスルーして、両手と足の指を使って上を目指す。筋力とバランス感覚と状況判断能力と対応力を鍛える木登りは、わたしの好きな鍛錬だ。


「よし、一番乗り!」

さすがに一番上までは危険があるから上れない。マークされた高さに到達したのはわたしが一番先だったから気分がいい。広い景色を眺められるのも、お気に入りだった。

「わ〜綺麗」

城の敷地でも山3つ以上の広さがあるけど、近衛騎士団の施設だけで小さな町くらいの面積がある。その中で数千人の騎士や仕える人たちが住んでいるんだ。

みんなの憧れ屋根がある王立闘技場や、屋根がない闘技場のコロシアム。そこで行われるトーナメントの優勝がわたしたちの目標。
もう二十年以上戦争はないから、名誉を賭けて戦うのが騎士のステータスにもなる。
女性騎士は少ない…というか稀だ。今まで数人しか叙任されたことがない。

だから、みんなに騎士として認められるためにも、絶対優勝しなくては!と改めて決意をした。