なにせ見初められたわたしは当時12歳で、ワイバーン騎士団副団長であるお父様の馬上槍試合を観に来ていただけ。
物心ついた頃からじゃじゃ馬で、どんな遊びも武芸も乗馬も同世代の男の子に負けなかったわたしが、お母様の説得で渋々年頃の女の子らしい格好をしていたんだ。

勝手に喋るな、動くな。なんて約束をさせられていたから、拷問に等しかったけれども。試合が始まってからは、熱中した。赤ちゃんの頃から武器を与えると泣き止んだ、というだけありわたしは武芸が大好き。

王立闘技場で観た迫力のある攻防に、息をするのも忘れて無我夢中で観た。

馬上槍試合はあくまでもパフォーマンスの意味合いもあるけれど、実戦に近くてなかなか迫力がある。フル装備の騎士が馬を駆りながら相手を槍で突き、落馬した方が負け。

お父様はあいにくフェニックス騎士団の団長に負けてしまったけれど、とっても格好よくて…わたしはより一層騎士に憧れを抱いた。駆け寄ったわたしを抱き上げたお父様に、ついつい騎士になりたい!とせがんだところをレスター殿下が見ていて…そこでなぜ、一目惚れするのかわからない。けれども、翌日王宮から正式な使者が来て
“レスター殿下がぜひとも婚約者に”……って。なんの冗談?って誰もが思うよね。

言葉をかわすどころか、はっきりと対面したこともないのに。
おまけに当時18歳のレスター殿下には、2歳下の幼なじみの公爵令嬢の婚約者がいらしたのだから。