捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?


「お邪魔します……」

床はクッションのように柔らかいスポンジ。天井はクッキー。壁はビスケット。フルーツにクリームに…。
ありとあらゆるお菓子でできた家を、アスタークは自慢げに話した。

“ほら、見て。いくら食べても減らないんだ。素晴らしいよね?びっくりしたでしょ?”
「……まぁ、ね」

複雑な気持ちだった。
現実にこんな家があれば、飢える人はなくなる。貧しさから、密猟に手を染めてしまった人のようにはならずに済むのに。

“母様、聞いて聞いて!お客様だよ…!”

ノックもせずにバタン、と乱暴にアスタークはドアを開ける。その先に、プラチナブロンドのソニア妃がいらした。

アスター王子そっくりの美貌は彼と同じ20歳ほどに見える。質素な綿のワンピースに身を包んだ彼女は、悲しそうな顔をした。

“アスターク……ダメと言ったでしょう?本当にしょうがない子ね”

「あ、あのはじめまして……わたしは」
“ミリュエール・フォン・エストアールさんですね”

ソニア妃はすらすらと、わたしの名前を当てた。

“いつも、お見舞いをありがとう……すべて聞いてました。あなたがアスターを大切に思い、またアスターもあなたを大切に思っている。とてもありがたく思います……ありがとう”