捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?


“ミリュエール” 

6日目の夜、久しぶりにあの男性が夢に出てきた。

“待たせたね。明日、やっと君を夢の国に連れていけるよ”

「そう?わたしを連れて行ってくれるの?楽しみだなあ」

今の今まで拒絶ばかりしていたのに、突然コロリと態度を変えた。普通ならおかしく思うだろうに、やはり男性は喜んでる。何も疑うことなく、無邪気な子どものように。

“ミリュエールも嬉しいんだね。ぼくも嬉しいよ。きっと素晴らしいよ。ミリュエールは騎士になれるし、好きなことばかりして遊んで暮らせるんだ”

また、男性はくるくると踊るように回る。そこで、わたしは最大の目的を果たすために彼に訊ねた。

「ねえ、あなたの名前は?」
“……?”

当然すべきだった質問。けれども、彼はなぜかキョトンとした顔でわたしに訊き返してきた。

“名前?名前って…?なに?”
「……!?」

名前が、なにかわからない…?そんな事があるの??

「あなたがわたしを呼んでいる、ミリュエール。そして、アスター王子も。これはぜんぶ、わたしたちをあらわす名前というものよ。一人ひとり違うものを付けられるの」
“そっか〜名前って、ミリュエールみたいなものなんだ。面白いね!”

クスクス、と笑いながら軽やかに舞う男性は、ピタリ、とわたしの前に足を止めて笑顔で言う。

“でも、やっぱりぼくに名前は無いよ。だって、ぼくはまだ母様のお腹にいた頃にユニコーンにいのちを奪われたんだから。まだまだ人のかたちをしてなかった時にね”