馬は好きだし、元々実家の厩舎でも入り浸っていたから苦にならない。普通の令嬢なら汚い臭いと忌み嫌うらしいけれど、馬と触れあうチャンスを逃すなんてもったいない。

とはいえ、馬にばかりかまけてるわけにはいかない。
御主人様となる、王族であり騎士である方のお世話もしなくては。

「アクア、また後でね」
「ブヒン」

(急げ急げ……早くしないと並ぶ羽目になる)

専用桶を持って井戸に急ぐと、ラッキー!
今日は一番乗りだ。

(やった!いつも並んでるのに……今日はついてる)

綱に木桶を結び、一度落として滑車を利用して汲んだ水が入った桶を上げる。なかなかの重労働だ。

「お、ミリィ。今日は早いな」
「あ、フランクス。おはよう」

ちょうど桶を上げ終わったところで、同じく桶を持った小姓のフランクスに会った。茶髪と紫色の瞳を持つ優しげな彼は一つ下で、わたしと同じく近衛騎士の小姓を務めてる。14になる誕生日に従騎士になる予定だ。

「相変わらずなよなよしてんな。これくらいさっさと汲み上げろよ」

そう言って桶を括り付けた彼は、驚くほどスルスルと桶に水を汲み上げた。わたしが数分かかったのに、フランクスは30秒とかからない。

「うん…そうだね」

事実、年下なのにフランクスの方がたくましい腕だ。
ううん、腕だけじゃない。体つきだって明らかに違う。

“あなたは女の子なのよ。そろそろいくら鍛えても男の人に勝てなくなるわ”

お母様がおっしゃられた懸念の言葉が、今になって身にしみてきた。