8月末ともなると暑さが若干和らぎ、夜明けも遅くなってくる。まだ空が白み始めるころ、近衛騎士団の宿舎で、わたしはアスター王子の鎧の装着を手伝っていた。

騎士の正装とも言えるプレートアーマーは、名前通りに頭からつま先までフルのプレートで覆われる重装備。とても一人では着られない。
その手伝いも、騎士見習いの大切な仕事だ。

今まで何度かアスター王子の装着を手伝ってきたことはあるけど、なんだか今日はまとう空気がいつもより張り詰めている。
無駄口は一切叩かないし、表情からも緊張感が窺える。
あと少し。手のひらを守る手甲(ガンレット)を履かせ、長剣と短剣を提げたベルトを腰に着ける。その最中、アスター王子がおもむろに口を開いた。

「ミリィ」
「はい」

ベルトを下げられ満足そうに見回したわたしが見上げると、アスター王子はわたしでなくまっすぐ前を見たまま、予想外の言葉を出した。

「この狩猟会の活躍次第で、おまえを従騎士にするかどうか決める。最後まで気を抜くな」
「……!」

思わぬ上司からの言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
わたしはまだ、見習いになって半年経ってない。
年齢的にはなってもおかしくはないけど、それは幼い子供の頃から修行してきた場合。

わたしは下手したら従騎士は20歳になってから、と思っていたのに。

アスター王子は人を評する時は厳しく、かつ公平だ。
だから、その人に認められたのだ、と知って涙が出そうなくらい嬉しい。

「……はい!頑張ります!!きっと、ご期待に沿ってみせます」

きっと、きっと従騎士に。なってみせる!