「はい。きっと騎士になってみせます。エストアール男爵家の名に恥じない、立派な騎士に……」

これで、令嬢として縁談はなくても生きていける。
エストアール男爵家を継ぐ資格に、騎士に叙されることが最低条件だ。家督を継ぐルールを記した特許状に付記されている。

今、エストアール男爵家にはわたししか子どもがいない。普通の令嬢なら他の貴族から婿を貰い家を継ぐのだろうけど、わたしは昔から弟が生まれねば自分が男爵家を継ぐと公言してきた。両親以外の周りの大人は失笑してたけど…そのために幼い頃から鍛えてきたんだ。

レスター王子の横槍で中断してしまったけれども、わたしも安穏と婚約者として2年間王宮にいたわけじゃない。主に武官を中心にコネを作っておいた。
その点だけは、王子に感謝してる。

14歳の騎士見習いは遅いスタートだけど、きっとやり遂げてみせる。

「お嬢、遂にいっちまうか…寂しくなるなぁ」
「たまには帰ってこいよ」

城で働いてるお父様の部下の人たちには、よく訓練に付き合ってもらった。もみくちゃにされ、名残惜しくて涙が出そうになる。この鍛錬場にも思い出が尽きない…けど。

「あの……さっきここに金髪の人がいなかった?」
「え?なんのことだ?」
「ずっとわたしを見てたけど…20歳くらいの若い男の人」

わたしが訊ねても、みんな一様に知らないという。だけど……確かにいた。金髪碧眼の美丈夫。
どことなくレスター王子に似てた気がする。

一瞬見ただけだけど、目が合った。

なにか言いたげな彼の蒼い瞳が、わたしの頭から離れなかった。