「……なんだって?」
「何度でも申し上げます。わたしはあなたをお慕いしてませんし、騎士になるのは家を継ぐためです」

怪訝そうな顔で訊き返してきたから、もう一度はっきりと言ってあげた。
すると、見る間にレスター王子の顔が赤くなっていく。

「ミリュエール!違うだろう。君はボクを好きなはずだ!その目が語ってる。アニタに遠慮して気持ちを抑えなくともいいんだぞ!?」
「話、聞いてますか?わたしはレスター殿下に未練はこれっぽっちもありません……ええ、最初からです」
「ミリュエール…!」

レスター王子がわたしに伸ばしてきた腕は、アスター王子によって掴まれた。

「レスター兄上。私の小姓に何をされるおつもりですか?」
「ぐ……アスター……貴様か!」

同い年ではあるけれど普段からふらふら遊び歩く放蕩王子と、自らを厳しく律し鍛え上げた現役の騎士である王子。体格も力も圧倒的に差があって、アスター王子はギリギリと軋む音がするほどレスター王子の腕を握りしめてる。

「い、痛い!はなせ!!」

バッ、とレスター王子に乱暴に手を払われると、アスター王子はあっさりと腕を放した。よほど痛かったのか、レスター王子は腕をぷらぷらと振ってる。

「アスター、覚えてろよ!ママンとパパに言いつけてやるからな!!」
「どうぞご勝手に……もっとも、セイラ王妃様も国王陛下も、公平で冷静な方々……あなたのわがままがいつまても通じるとは思わない事です」

アスター王子の正論に、レスター王子は「ふん!ママなし子め!」と暴言を吐くと、尻尾を巻いて逃げていった。