(お父様は騎馬の時の動きにクセがある……)

生まれてからずっと、お父様のことは尊敬の眼差しで見てきた。ずっと、ずっと。

でも、ただぼーっと見てきてはない。

わたしも、わたしなりにお父様を観察し分析してきた。真似られることは真似てきたし、色々参考にした。ダメと判断したことは、真似てない。

たぶん、本人も気づかない微かなクセ。周りも気にしない程度の。

(これで…決める!)

あと数秒で、お父様とすれ違う。
木剣をギュッと握りしめた。

小手先の技でも、いい。
今ここでお父様に勝たなければ、きっとこの先何も成し遂げられない。

お父様のファルコが鼻先まで迫った瞬間、わたしは構えた木剣を繰り出す。

「たあっ!!」

お父様も当然それに対応した構えで防いできた……けど。

(今だ!!)

バシン!

お父様の胸当てに、微かだけど確実に剣先が届いた。

おおっ!と、周りを囲んでいた人たちからどよめきが上がる。まさか14歳の小娘が、練習試合とはいえ現役の精鋭騎士に勝てるとは思わなかったんだろう。

お父様がファルコを駆り、戻ってくる。

「見事だ、ミリュエール。色々とまだ不十分ではあるが、素質は認めよう。私の知る騎士に推薦状を書くからまずは小姓として仕えなさい」
「はい…!ありがとうございます」

馬上から降りたわたしは、お父様に頭を垂れた。これからは親子だけでなく、上司と部下となる。甘えは許されないんだ。