その日は忙しくて、すっかり忘れてた。
夜に恐怖の時間が待っていたことに。

「はい、椅子に座ったまま。動かないでくださいね〜」

(しまった……メダリオンは肖像画入りってのを忘れてた)

夜、さっそくお父様が手配した宝石屋がやって来た。
アスター王子に知られないため、用意された別室で肖像画を描く手はずになったんだけど。

肖像画!貴族令嬢でいる以上に、苦痛で苦手な時間のオンパレード。

ドレスを着てじっとしていなきゃいけないし、笑顔やポーズを作らねばならないし。なんの拷問かと思う。

なんでみんな、こんな苦痛に耐えてまで自分の姿を描いてもらおうとまで思うのか。わたしには理解不可能だ。

「ああ、ダメダメ!手は左を上に膝の上に。笑顔が引きつってますわよ。膝が開いてます!口を開けないでください」

(あああ~もう!剣を振ってる方が100倍ましだよ!!)

メダリオンのもとになる肖像画を描く画家にこてんぱんにやられ、気力が尽きそうになった。


「……疲れたよぉ」

ドアを開けた瞬間、驚きでドキッと心臓が鳴った。
アスター王子が仁王立ちで待っていたからだ。

「ミリィ、遅かったな?」
「ああ、はい……すみません、今日は疲れたのでまた明日……」
「おい!」

疲労困憊のわたしはアスター王子の相手をする気力もなく、コテンとベッドに倒れ込んでそのまま寝落ちしていった。