『好きじゃないのにキスをした』


 そうはっきりと告げられて、心が酷く傷ついて。涙が溢れ出しそうになって。


 そこでやっと、私は自分の気持ちを自覚した。


 ……私は湯本くんのことが好きなんだ。


 気持ちよさそうに眠る顔が可愛いところとか。


 さりげなく分け与えてくれる、温もりや優しさとか。


 保健室のベッドを2人で分けて、眠って。その時間が大切で。



 恋を自覚した瞬間、恋を失った。



 ほんとは佐原くんとの約束なんてなかったのに、嘘をついて逃げ出した。


 涙をこらえながら保健室から出たら、驚いた顔をした佐原くんが廊下に立っていて。


『えっ、浅川さん? どうしたの?』


 涙を止められない私を、人目のつかないように隣の会議室に押し込んでくれた。


 私が泣いてるところを見ないようにって、自分は廊下にいてくれて……佐原くんが人気者な理由もわかった。


 それからしばらくして落ち着いてきた頃、ドアがからりと開いて、


『湯本くんになにかされた……?』


 ちょっと怒ったような、でも心配の情を一番滲ませた佐原くんは、私の少し潤んだままの瞳を覗き込んだ。