「ドキドキして苦しくなっちゃうから、反射的に逸らしちゃうの。……ごめんね」


 頬を赤く染め、固く目を瞑る彼女。


 普段は生きるためだけに働いている心臓が、なぜだかきゅっと締め付けられたような動きになった。


 彼女に出会ってから、俺の心臓は時折壊れたように変な音を鳴らす。


 それは彼女が可憐に笑ったときとか、寝ているときの無防備な顔を見たとき。


 他にも、彼女に見惚れている男たちを見つけたときとか、彼女に惚れている男たちの会話を聞いてしまったときに。


 跳ねたり、衝撃を受けたり、騒いだり。


 ただ一定の働きをしていればいいのに、なにかを必死に伝えるみたいに動く。


 そのくせ、彼女と話している間はいつもよりも穏やかに、落ち着いて働く。


 ……まったく意味がわからない。


 俺は授業をまともに受けたことはないけど、生物の教科書にはこんな心臓の働きなんてどこにも書かれていなかったはず。


 どんなときも、誰が相手でも、なにごとにも動じない。


 自分が一番大事で、自分のペースを崩さない。


 それが俺の長所だったのに……どうかしてる。