「お腹一杯」


お店から出ると、自分のお腹を擦る。


私達の他にお客さんが来なかったな、と思っていたが、
お店の前に、こんな黒塗りの車ばかり停まっていて、護衛の人達も立っていて。


そりゃあ、誰も来ないか。


「一夜、ご馳走さま」

横に居る一夜にそう言うと、いえいえと笑っている。


そして、私の手を握ってくれる。


「真湖ちゃん、この後どうする?
俺の家に泊まる?」


そう訊かれ、それに頷きたいけど。


「ごめん。明日は朝からアルバイトだから。
一夜のマンションから通えなくもないけど…」


私のアルバイト先は、自宅のあるマンションの近く。

「朝、誰かに車で送らせるよ?」

「ん…でも、それに、泊まる用意何も持って来てないから」


まさか、一夜の自宅に泊まってもいいなんて思わず、
何も用意して来ていない。


「お泊まりの用意くらい、こっちで用意してあげるけど…。
って、ヤりたいから無理に引き留めてるわけじゃないから!」


そう、慌てたように言うから、笑ってしまう。


その、一夜の下心丸出しの言葉。


「例えば…、一夜がいつも使ってるあのホテルで、ちょっと休憩…とかは?
お泊まりは、朝起きられなくなるから。
寝かさせてくれないでしょ?」


「だね。
じゃあ、ちょっとだけ休憩しよっか?
此処から近いから、歩いて行こっか」

そう、嬉しそうな顔をしている。





昨日の夕方迄居た部屋に、こんなにもすぐ来るとは思わなかったな。


また同じ、707号室。


今回、過去二回とは違うのは、この部屋の外に一夜の護衛の人達が立っている事。


この部屋の扉の向こうに誰かが居ると思うと落ち着かないが、
流石に護衛の人達は部屋に迄入って来ないから、それは良かった、と思う。


「真湖ちゃん、好きだよ」


「うん…」


私の上に乗り、私の体を夢中で求めて来る一夜の背に、腕を回した。


今が幸せだから、この関係がいつか終わるなんて思えない。


一夜と私、永遠に一緒に居たい。


そう思うのは、いけない事なのだろうか…。