「加賀見会長の事は、組入りしてからよくこちらに顔を出してくれるようになって、
かれこれ、12年くらい見て来ましたけど。
このお店に女の子を連れて来たのは初めて」


「そうなのですね」


それは、嬉しいかもしれない。


今までの彼女よりも、私は一夜にとって、少しは特別なのかな?


「それと、真湖ちゃん。
先程両親にあまり愛されてないとおっしゃってましたけど。
そんな事ないと思いますよ?」


幸子さんのその言葉に、口を閉じてしまう。


この人も母親で、自分の子供が可愛いから、そう思うだけなのでは?


子供を愛さない、親は居ないって。


「幸子さん、追加でだし巻き玉子頼んでいいですか?」


なんとなく、話題を変えたくてそう口にした。


実際、私は卵焼きが大好きだから、本当に食べたかったのもあるけど。


「分かりました」


幸子さんはそう微笑み、厨房の方へと行く。


お線香をあげに行った一夜はなかなか戻って来ず。


帰って来たのは、私がそのだし巻き玉子を食べ終えた頃。



「ただいま。
真湖ちゃん、幸子さんと何話していたの?」


帰って来た一夜にそう訊かれるけど、
あの後、特に幸子さんとは会話らしい会話はなかった。


特に気まずい雰囲気とかではなかったけど。



「加賀見会長がとても優しいと、真湖ちゃんから伺いました」


幸子さんがそう言うと、えー照れるな、と、一夜はちょっと恥ずかしそうに笑っていた。


その後は、何故か早瀬さんの話ばかりで。

子供の頃にゲームのやり過ぎで近視になったとか、ああやってクールに見えて、
けっこう女性関係が乱れているとか。


一夜と幸子さんが、私に聞かせるように話す。


歳が近いからか、一夜はけっこう早瀬さんと仲が良いみたい。

早瀬さんは一夜のすぐ後に、聖王会に組入りしたらしい。


そして、三代目聖王会会長を襲名した時に、秘書として早瀬さんを指名したのは、一夜自身らしい。