「俺、佑哉(ゆうや)さんに線香あげて来る。
スーツじゃなくこんなラフな服装で来て、失礼かもだけど。
真湖ちゃん、待ってて」
そう言って、一夜はお店の奥へと入って行った。
「このお店の二階と三階が、住居になってて」
幸子さんが、そう教えてくれる。
先程、一夜が口にした佑哉さんは、
多分、幸子さんの旦那さんで、早瀬さんのお父さん。
なんだか、一夜が居なくなると、会話が無くなり気まずい。
この人は、旦那さんをそんな形で亡くしたのに、息子迄ヤクザになってしまって…。
やはり、早瀬さんの組入りには、反対したのだろうか?
それとも、先程、一夜がこの人の旦那さんを英雄だと言ったように、
ボスを体を張って護りそれは名誉ある死で。
幸子さんも、そんな旦那さんが居た聖王会に忠誠心を、持っているのだろうか?
だから、息子も…。
いや、ありえない。
そう思うのは、私が部外者だからか?
この人達親子だけじゃなくて、一夜だって。
母親をヤクザの争い事に巻き込まれて亡くして。
それなのに、今、その世界に居るなんて…。
「加賀見会長は、優しいですか?」
その声に、知らずに寄っていた眉間を緩めた。
「優しいです…。優し過ぎて、困ってしまうくらい」
私は昌也と一夜しか付き合った事がないので、
その二人の違いに驚いている。
どちらが普通なのか、どちらも普通じゃないのかも分からなくて。
「私、両親からあまり愛されずに育って…。
だからか、一夜がとても私の事を愛してくれて、そんなのが初めてで、戸惑ってて…って。
私は一体、何を言ってるんでしょうか…」
ちょっと、惚気てしまった。
幸子さんの醸し出す雰囲気が柔らかくて、
自然とそうやって話していた。



