以前と同じように、早瀬さんの運転する車に、
私と一夜は後部席に座る。


「あ、そうそう。
早瀬、金。
ホテル代足りなくて、真湖ちゃんに借りてて」


車が走り出してすぐ、一夜が思い出したようにそう言うと、早瀬さんは分かりましたと、自分の財布を一夜に渡した。


一夜はその長財布を開き、バッと万札を束で引き抜いた。


「真湖ちゃん、ありがとう。
助かった」


私はそのお金を前に、戸惑う。


このお金は、早瀬さんのでは?

けど、それはまた後で一夜が早瀬さんに返せばいいのか。


いや、それより、私が貸したのは2万円なのに、明らかに10万円くらい有りそうで。


「一夜、私が貸したのは2万円だから」


「俺、倍にして返すって言ったじゃん」


そういえば、言っていたかもしれないけど。


「遠慮なく受け取っておけばいいと思いますよ。
加賀見会長の顔を立てると思って」


早瀬さんにもそう言われ、なんだか恐れ多いような気持ちでそのお金を受け取った。


帰りのその車内。


一夜と早瀬さんで、将棋の話を始めた。


将棋の話というか、こういうのを目隠し将棋っていうんだったかな?


将棋盤を使わず、口頭で将棋を指す。

私も父親が将棋好きだから、ぼんやりとその言葉を知ってるくらいで、全くよく分からない。


それを始めたのは、早瀬さんの方からで、この人も将棋好きなんだ、と思う。


一夜はオンラインの将棋の対戦ゲームにハマっているって、
昨夜話していたな。


「2八銀……。それは難しいね」


一夜はそう口にし、んー、と唸っている。


それで勝負がついたのかついてないのか、将棋未経験の私には分からないけど。


そのタイミングで、車は私の住むマンション近くに停まる。


毎回そうだけど、マンション前迄送らないのは、この人達の気遣いなんだな、と今さらながらに気付いた。


こんなヤクザが乗ってそうな車から私が降りて来るのを、同じマンションの住民に見られたら、変な噂を立てられる。