「真湖ちゃん、いらっしゃい」


一夜自らが、玄関の扉を開けてくれた。


その一夜の顔を見た瞬間、胸がキュンとして、完全にヤバいと思ってしまった。


絶対に好きになってはいけないと、自分を諌める。


一夜は寝癖なのか、癖毛なのか、少しボサボサなヘアースタイルで、上下スウェットという気の抜けたスタイルなのだけど。


これはこれでカッコいいな、と思ってしまった。


一夜の家は、コンシェルジュが常駐している高級そうなマンションで、
玄関に来る迄に、二つオートロックの扉を通った。


10階建てマンションの最上階の角部屋。


開かれた扉の向こうに見えるのは、
黒い大理石が敷き詰められた広い玄関。


「来て貰ってごめんね。
俺、寝起き血圧低くて」


一夜は昼夜逆転していて、起きるのは昼よりも遅い時間みたい。


16時に近い今も、まだ眠そう。


「いいよ、別に」


「真湖ちゃん、忙しかったんじゃない?」


「忙しいなら、来ないよ。

今日は暇だったから」


それにしても、結局、支度に時間が掛かって、遅くなってしまった。


とりあえず、お母さんには、今夜は帰らないとLINEしといたけど。


この人、今夜は暇なのだろうか?


ヤクザのトップが普段どんな生活をしているのかは分からないけど、
夜は用事があったりしないだろうか?



「「いらっしゃいませ!!」」


リビングと思われる所に通されると、
二人の二十代前半くらいの若い男の人が居て、そう頭を下げられた。


「…えっ」


急に、ビックリした。


「うちに住んでる子達。
彼らに、家事とか色々して貰ってて。
彼ら以外にも、うちの組の人間はけっこう出入りするから」


一夜のその説明を聞きながら、
この人達は、いわゆる部屋住みの若い衆ってやつなのかな?と思う。

こうやって、一夜の身の回りの世話をしながら、一夜を警護し、見張っているのか。


前に一夜が、若い子達の目を盗んで抜け出したと言っていたのは、
そういう事か。


この人はやはり大きな暴力団組織のトップなのだと、改めて思う。