「あ、真湖ちゃん?」
一夜は、こちらにゆっくりと近付いて来る。
今夜の一夜は、スーツ姿で髪もしっかりとセットされているけど、
ニコニコとしているから、
一見、それっぽくは見えない。
「ねぇ、お前ら真湖ちゃんに何気安く声かけてんの?」
一夜の顔から笑みが消えて行く。
それに、身が震える。
「あ?なんだ、おっさん」
その真ん中の男の子も、そうやって一夜に凄まれて、
そうやって喧嘩腰で返している。
「お前の不幸は、俺の顔を知らなかった事だな」
一夜がそう言い終えると同時に、
真っ直ぐな蹴りが、その真ん中の男の子の腹に入る。
ドン、と鈍い音がして、
その男の子はその蹴られたお腹を押さえて、
膝から崩れ落ちた。
ぜぇぜぇ、と痙攣のように息をしている。
「お前、なんだよ?
俺ら、和同連合だと分かってこんな事してんのか?」
その男の子達の一人が、一夜を睨み付けている。
「和同連合…」
ワドウレンゴウ、と一夜は呟いている。
何かの組織だろうか?
「加賀見会長、急に居なくならないで下さい」
眼鏡を掛けた三十代前半くらいのスーツ姿の男性が、こちらへと走って来る。
「加賀見会長って…」
先程、和同連合がどうとか言っていた子もそうだけど、
今もお腹を押さえて地面に膝をついている彼と、もう一人の男の子も、
怯えたような目を一夜に向けている。
「お前ら、中(あたる)の所の奴らか?
ったく、あいつにガキどもにこの辺りうろつかせんなって言っとかないと」
「あたる?」
その名前に私が首を傾げていると、
「俺の弟。
歳離れてるから、弟は真湖ちゃんと同じ年なんだ」
一夜が、そう教えてくれる。
「そうなんだ」
そう言えば、この人に腹違いの弟が居て、半グレ?みたいな集団のトップで。
その半グレグループも、聖王会と繋がりがあるとか、昌也が前に言っていたな。
その半グレのグループが、和合連合かな?



