「その時が来たら、俺、あの子とちゃんと別れられんのかな…。
警察官になる真湖ちゃんとは、いつか別れないといけないから。
別れたくない」


今から、こんなに苦しくて切なくて。


まだ付き合って、二日目なのに、ウケる。


真湖ちゃんと別れる事を考えただけで、泣きそうでたまらない。


「別れなくてもいいんじゃないですか?
二人が全てを捨てて何処かに行っても、俺は加賀見会長を恨まないですよ」


「早瀬、そんな優しい事言わないで。俺、泣きたくなるから」


真湖ちゃんとの幸せを選ぶ事は、俺が今までして来た事が無意味になるだけじゃなく、
同じように聖王会を潰したいと思う、早瀬やその母親の幸子さんを裏切る事。


「俺は構いませんよ、と伝えておこうと思って。
俺は、加賀見会長には恨みはないから」


俺には、恨みはない、か。


俺のじいさんの事は恨んでいるけど。


「けど、真湖ちゃんの方が俺と一緒になるとは思えないな。
警察官にあの子がどの程度なりたいのかは分からないけど、それを辞めて…。
真湖ちゃんの父親は警察官だし、母親も弁護士とか固い仕事だし…。
俺も、この世界でちょっと有名になり過ぎたからねぇ」


そう口にして、やはり真湖ちゃんとは無理なのだと思う。


ヤクザの俺が今の立場を捨てた所で、元暴5年条項もあるし、安定した職に就けるわけじゃない。


今の立場のままでも、お金はあってもヤクザの俺なんかと居て真湖ちゃんが幸せになれるとは思えない。


それに、いつ俺が警察と繋がっていると聖王会の人間に知られるか分からない。


そんな事になったら、俺は消されるのは確実だし、その時真湖ちゃんが側に居たら、あの子も危険な目に合うだろうな。


「その時が来たら、俺はちゃんと真湖ちゃんと別れるよ」


「今からそう決めなくても。
人の気持ちは変わるので」


「これから真湖ちゃんと一緒に居て、今以上にあの子を好きになっても、そうする。
もしかしたら、今こう言っていても、真湖ちゃんの手を引いて何処かに二人で逃げてしまいたい、とか思うかもしれないけど。
好きだから、ちゃんと別れてあげないと」


真湖ちゃんがいつか幸せになれるように、その手を離さないと。


「加賀見会長のお気持ちは分かりましたけど。
まだ付き合ったばかりなのに、暗すぎません?
らしくないから、浮かれてて下さい」


クスクスと笑われ、だよね、と俺も笑って思う。


真湖ちゃんと別れる時も、こうやって俺らしく笑ってさよならしようって。



(終わり)