「そういえば、真湖ちゃんいつか俺の事捕まえるって言ってたけど。
きっと、無理だよ」


「唐突に、なんですか?」


私を見ている一枝さんの顔が、なんだか自信満々で腹が立つ。


「ふと、真湖ちゃんがそんな事言ってたな、って思い出したんだよ」


この人には、言ってたな、くらいの事だったのか。


「そうやって強気かもしれませんけど、今じゃなく、10年後の私なら分かりませんよ?」


「真湖ちゃんが思ってる感じとは、違うんだよね」


「え?」


「最近の俺、違法な事全然してないから。
悪い事してないのに、俺を捕まえるの?」


「え、いや、それは…」

悪い事を、してないの?


「もうふうちゃんも居ないし。
べつに、うちの組がどうなろうと構わない。
うちの父親も、年取って来て保守的になって来てたけど、
ふうちゃんが居なくなって余計にね」

そういえば、この人の父親が永倉組の組長だったな。


「だから、ふうちゃんが鈴城組の高崎君に殺られても、
うちの父親は、聖王会内部でうちと鈴城が揉めないように、
ふうちゃんの死は、あまり公にしないようにして。
だから俺、竜道会の人間と接触して、金積んで高崎君を消して貰ったんだけど」


段々と話の方向が、そうやって危険な方へと進んで行く。


「それが、今回のいっちゃんの暗殺に繋がるんだけどね」


この人は、高崎さんの件で竜道会と繋がりを持ち、
一夜も死に追いやった。


「それだけじゃなく、過去には色々あるよ?
流石に、これは言えないなって事は言わないけど。
叩けば、本当に俺はホコリだらけ」

「一体、何が言いたいんですか?」


「過去の罪なら、俺を引っ張れるけど。
真湖ちゃんの感じだと、そんな感じじゃなかったから。
無理だよ?って話」


確かに、私は一枝さんの過去の罪を暴こうとはしていない。

それは、一夜がこの人を守った思いに負けて。


だけど、一夜はきっと迷ったと思う。

あのUSBだって、公にするかどうか。


その一夜の後悔の為、私はいつかこの人をこの手で逮捕しようと思った。


思った、けど。