「シャンパンですか?」


一枝さんの手に、シャンパンのビンが握られている。


「毎年、俺がチキンを用意してたんだけど。
流石に、そんなものお墓に置いたら、カラスに荒らされそうだから。
今年はこれ」


そう掲げられたボトルは…。


「ドンペリプラチナ…」


「俺、仕事関係でお酒は安く手に入るから」


それでも、高価なものだろう。


「あれ?真湖ちゃんは手ぶら?」


「え、まあ…」


慌てて家を出たので、何も持って来ていない。


途中に何処かに寄って、花の一つでも持って来たら良かった。


「それにしても、去年に引き続き今年も二人の邪魔をしてごめんね」


去年のクリスマス、一夜の部屋で三人でクリスマスパーティーをしたな。


一年後、もう一夜がこの世に居ないなんて思わなかった。



「いえ。今年も三人で過ごせて良かったです」


きっと、一夜もそう思っているだろうな。


「真湖ちゃん、グラスないけど、ドンペリ飲む?」


「いえ。私、今日は車で来たから」


「そう」


一枝さんは、ドンペリのキャップシールを外し、針金を緩めると、取り出したハンカチでコルクを押さえ、引き抜いた。


ポン、と大きな音がした。


「実は、俺も車で来たんだよね」


て事は、一枝さんも飲まないのだろうか。

栓を開けたのに。


そう思っていると、一枝さんは、一夜の眠る墓石に、そのドンペリを掛け始めた。


それは、勢いよく、ドバドバと。


「一枝さん?!何してるんですか?」


「いっちゃん、シャンパン好きだったから」

「そんなの掛けたら、駄目ですよ?」


乾いたら、ベタベタになる。


「天気予報で、今夜から大雨だって。
きっと、この程度の寒さなら雪にならないから。
朝迄には、綺麗に流されるよ」


「そう…ですか」


雨が降るのか。


だから、今日は凄く暖かかったのかな。