「あの、さっき眼鏡を、クリスマスって?」


「ああ。クリスマスに、付き合ってる女から眼鏡貰ったって嬉しそうに兄ちゃん言ってて」


「あ、うん」

私があげた、べっこう柄の眼鏡。


大切だから傷とか付いたら嫌だとか言って、一夜はあまりそれを掛けてくれなかった。

もしかしたら、気に入ってないのかな?と思っていたけど、
嬉しそうにそう話していたなら、良かった。


「兄ちゃん、"俺の彼女は絶世の美女だ"とか言ってたけど、盛り過ぎだろ」


「…」


なんだろう…。

そう言われて、中に腹が立つよりも、凄く恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちになってしまった。


それで、さっき、普通だな、と言われたのか。



「普通に可愛いな、兄ちゃんの彼女」


それは、誉められているのだろうか?



「元、彼女だけど」


「めんどくさい奴」


と笑われたけど。


さっき、自分だって、腹違いだとかめんどくさい事言ってたくせに。


「別れてんのに、良かったか?」


「なにが?」


「だから、正月に会った時に、その、眼鏡の話されて。
兄ちゃんに頼まれてたから。
"もし俺が死んだら、葬式の時その眼鏡を掛けて、そのまま一緒に焼いてくれ"って。
だから、俺、その約束守ったけど、良かったのか?」


俺が死んだら、か。


やはり、私と付き合っていた時も、一夜はそうやって死ぬ事を考えていたんだな。


「いいよ。
嫌いで別れたとかじゃないから。
今でも一夜が好きでたまらない」


そう言うと、そっか、と中は笑っている。


「ただ、約束してたみたいに、兄ちゃんにその眼鏡を掛けてやれなかったけど」


そう言われ、一夜がどんな風に亡くなったのか、思い出す。


昌也から聞いてはいたけど、ネットでよく書かれていたのは、鼻の辺りから上はもう残っていなかったって…。


「だから、兄ちゃんの手に眼鏡をしっかりと握らせてやったから。
ちゃんと、あの世に持っていけるように」


「そっか。ありがとう」


今日、中に会う迄、私のあげた眼鏡がどうなったかなんて考えなかったけど。


そっか。良かった。


「もし、俺、余計な事言ってたら、悪い。
さっきから、お前の顔暗いから」


この人、けっこう良い人なんだな。


そりゃあ、一夜の弟だもん。


そうに、決まってるか。