こちらへと歩いて来る足音に、私は振り返った。


その人物の姿を見て、目を見開いてしまう。


「…いち…や?」


そう口にして、すぐにそうではないと気付いてしまう。


一瞬、本当に一夜かと思うくらい、その男性は一夜に似ているけど、
一夜よりも、若そうだし、少し背が高い。


目だって、一夜のように垂れ目じゃない。


けど、鼻や口や輪郭がそっくりで、
眼鏡を掛けているからか、本当に一夜にそっくりに見える。


その眼鏡は、一夜がよく掛けていた赤い眼鏡と、そっくり…。


いや、同じものだ。


「もしかして、お前が眼鏡の女か?」


その男性は、私に向かってそう訊いて来る。


眼鏡の女?


「眼鏡って?」


眼鏡を掛けているのは、むしろ私じゃなくあなたなのに。



「正月に兄ちゃんが、クリスマスに眼鏡貰たって言ってて」


その言葉に、もしかして、と思う。


一夜には、腹違いの弟が居て、その弟は半グレ集団のリーダーだと、昌也が前に言っていたけど。


目の前のこの男性は、どう見てもそんな半グレとかに見えない。


アイドルのような爽やかな風貌で、髪の色だって真っ黒で。


でも、一夜と血を分けた兄弟なのだと、その顔を見ていたら一目瞭然だな…。


本当に、一夜にそっくり。


「中さん?」


確か、前に一夜がそう弟の名前を口にしていた。


歳が離れていて、私と同じ歳なのだと。


「お前の名前は?」


爽やで優しそうな風貌とは違い、少し態度がデカイけど。



「綾瀬真湖」


「そう。お前が兄ちゃんの女?
なんか、思ってたより、普通だな」


さっきから、この人けっこう失礼だな。

一夜と全然違う。


「中さんは、その…」


「中で、いい。
さんとか、いらない」


言い方とかは全然違うけど、一夜にも初めて会った夜、同じような事を言われたな。


「その、中は一夜の弟なんだよね?」


「腹違いだけど」


わざわざそうやって口にする感じ。


一夜とそれ程兄弟仲が良くなかったのかな?