「薔薇の花をばら撒き、そうやって部屋のセッティングが終わったら、携帯の電源を落としておけ、というのが、加賀見会長からの俺への指示です」


「じゃあ、一夜は夕べこのホテルに来てないの?」


「そうですね。
うちの持ってる他のラブホテルへと、行かれました」


「なんで、一夜はそんな…」


別に、他の女性と待ち合わせていたとか、そんな事は思わないけど。

何か意味があって、そうしたのだろう。


「敵を誘う為ですかね?
敵というのは、竜道会なんですが、現にこうやって加賀見会長は暗殺されて、思惑通り。
竜道会へどうやってリークしたのかは知りませんが、自身が護衛も付けず、ホテルで居るのだと、そうやって誘った」

「早瀬さんは、一夜がそんな目に合うって分かってて、なんで止めないんですか?」


「俺も、加賀見会長の考えを聞かされていたわけではないです。
実際、加賀見会長が撃たれたとニュースを見てそうだったのか、と。
いえ、薄々は分かってました。
加賀見会長は、最後は自分の死を引き換えにするのだろうと」


「一体、どういう事ですか?」


「真湖さん、加賀見会長から聞いたでしょう?
俺達が警察のエスなの」


「はい」


「俺と加賀見会長は、聖王会をぶっ潰すつもりで組入りしたのですが、段々と俺達が聖王会の中枢に入り込んだ頃から、
警察側の人間から、これ以上は何もしなくていいと言われるようになって。
加賀見会長がトップになり、聖王会をこのまま操る方がいいと思っての事でしょう」


"――警察側から、聖王会をぶっ潰してはダメだとか言われて。
聖王会が失くなったら、うちのシマで代わりに海外マフィアや半グレの奴らが、取って代わって勢力を強めるからって。
そいつらの方が俺らヤクザより、タチ悪いからって。
だから、聖王会は生かさず殺さずで、いいって――"


そんな事を、一夜は言っていた。