朝から、なんだかずっと落ち着かなかった。


ずっとこの日を待ちわびていて、この日が来なければいいとも思った。


真湖ちゃんと別れてからの俺は、いい子で勝手に出歩くような事もしなかった。


そして、周りを信頼させ、玄関の入り口に見張りを置かれる事も、GPS を付けられて監視される事も、辞めさせられた。


早瀬は、俺をそうやって厳しく監視して見張っている振りをしながら、今夜の為に、最近、それを無くしてくれた。


演技をしていると分かっているとはいえ、そんな早瀬を説得する事はけっこう骨が折れた。


そして、今夜。

勝手に自宅のマンションを抜け出した俺は、
久しぶりに得た自由に心が弾んだ。


子供の時のような、ワクワクとした気持ちになった。


俺は今、聖王会の系列の組の持っているラブホテルの707号室で一人、待ち人を待つ。


ソファーに座って、腕時計を見ると、23時55分。


真湖ちゃんに、部屋に来て欲しいと言った時間から5分過ぎた。


来ないのかな?


と思った時、ブルゾンのポケットに入れていたスマホが鳴り出した。


真湖ちゃん?と思ったけど、あの夜、お互いのLINEを消したから、そんなわけがない。


見ると、ナガやんからのLINE電話。


「はーい。ナガやんどうしたの?」


『ほら?
今夜、思い出のラブホテルの707号室で、久しぶりに真湖ちゃんと会うんでしょ?
二人の再会を邪魔しようと、電話した』


クスクスと、悪気もなくナガやんは笑っている。


ナガやんには、以前から何度も言っていた。


今夜、真湖ちゃんの誕生日に、二人の思い出のラブホテルの707号室で、
彼女の誕生日のやり直しをするのだと。


そのラブホテルの名前や場所と、真湖ちゃんとの待ち合わせの時間も。


「えー、悪趣味」


そう言葉を発した時に、この部屋の扉がガチャリと開く音が聞こえた。


俺は、それに反応したように立ち上がり、少しそちらへと歩いて行く。

「ナガやん、来たみたい。
俺の待ち人」


その人物は、二人居る。


アジア系だけど、なんとなく日本人ではなさそうな雰囲気。


そいつらは、若い男と女で、この場所に入って行く事が不自然と思われないように、カップルを装っているのだろう。